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★★★★(4/5)
あらすじ
曾我冬之助は新たに宇佐美姓を名乗り、若き長尾景虎(上杉謙信)の軍配者となる。
しかし実際に戦況を支配していたのは「毘沙門天の化身」景虎その人だった。
常識外れの発想で勝ち続ける天才・景虎に、足利学校の兵法は通用するのか?冬之助の旧友・山本勘助が率いる武田軍との攻防が続く―。(紹介文より)
〜感想〜
『信玄の軍配者<軍配者シリーズ2>』 に続く3作目、完結巻です。
『早雲の軍配者』 では北条の軍配者、風摩小太郎、 『信玄の軍配者』 では武田の軍配者、山本勘介(四郎左) が主人公でそれぞれがいかにして軍配者になっていったか、が語られていました。
本作はそんな2人の旧友にしてライバルでもある、曽我冬之助が主人公です。
山本勘介によって命永らえることになった冬之助は ”足利学校” で共に学んだ直江のつてで、長尾景虎(のちの上杉謙信)もとで ”宇佐美”と名前を変え軍配者として生きることに。
いつの日か、軍配者として思う存分、勘介と小太郎と戦うことが生涯の目標となるのだけど、生憎と主君の景虎は冬之助の軍配者としての知恵も計画も必要としないほどの戦上手。
しかも、戦いのセオリーが通用せず、まさか と思うような時でも勝ったりします。
自分の軍配者としての補佐は必要ないのでは、と思う冬之助だったのだけど、”天は二物を与えず” という言葉もあるとおり、景虎は戦のこと以外になるとさっぱりで……
なので、領民たちの不満を理解できず謀反を起こされたりすることも。
しかも、景虎本人はあくまでも ”義” を大事にして清廉潔白な人物なので、家臣たちが戦の褒美を欲しがったりする気持ちを理解することができません。
逆に、欲をあからさまにする家臣たちに憤り軽蔑し、自分の志が伝わらないことに絶望してしまいます。 そうして、いよいよすべてに嫌気がさした景虎は ”出家する” と宣言します
慌てたのは家臣たち。
最初は、脅し だとのん気にかまえていたものの、あいにくと景虎は本気です。 そうして、「新しい主君を選べ」 と家臣たちに告げた景虎は、数ヶ月待って本当に姿を消してしまいます。 流石に家臣たちも真剣になり、なんとか景虎に戻ってもらおうと自分たちの行いを改めて、景虎に懇願してやっと戻ってもらえることに。
その間、冬之助は家臣たちの景虎という人物に対する理解力のなさに呆れながら傍観していたのだけど、戻ってきた景虎は以前の迷いをなくし人間的にも成長したようで、さらに戦では信じられない強さを発揮することになります。そんな景虎に敬服した冬之助は改めて彼についていこう、と気持ちをかためるのだけど……。
本シリーズは小太郎、四郎左、冬之助 の三人が軍配者として成長していく様子を読むのが面白いんですが、同時に彼らがそれぞれ仕える主君たちの違いを比べるのも楽しみの一つかな、と思います。 でも、どうも私は今回の主君の長尾景虎は好きになれないというか……。
確かに清廉潔白で利己的な思いはこれっぽっちもない人物ではあるのだけれど、でも、自分のものさしだけで ”良い” ”悪い” を決め付けているような気がして
そんな景虎にしてみれば、”究極の悪” が武田晴信(信玄)となるようで、とにかく ”晴信憎し”
の一念で戦い続けているような感じです
個人的な好みでいえば、景虎よりも晴信のほうが人間らしく思えてしまうので、困ったことに景虎が勝ってもあんまり嬉しくなかったり
冬之助にしても、景虎が戦いに強いのであまり見せ場がなくて。。。
信玄の軍配者の山本勘介(四郎左)のほうが存在感があったような気がします。
本シリーズのそれぞれの巻で活躍した、小太郎、勘介、冬之助でしたが、でも、全編をとおして一番印象が強かったのは山本勘介でした。 実は、彼こそが影の主人公だったんじゃないのかな、と思ったり。
それだけ勘助の生き方は胸に残るもので、最後は彼の運命の切なさに涙せずにはいられませんでした
十代の頃に出会い、それぞれ紆余曲折を経て軍配者になった3人が迎えた結末は、切なくて哀しいものでした。 ただ、3人がお互いに対して抱いていた友情はかけがえのないだったんだな、ということはしっかり伝わってきて、哀しさのなかにも不思議な清清しさが残る作品でした。