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ディック・フランシス
早川書房
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(1978-01)
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★★★★(4/5)
あらすじ
黒ずくめの誘拐者がニューマーケットでも有数の厩舎に押入った。何故……この疑惑は一味の首領が現われたとき重苦しい不安に変った。ダービイの本命馬に一味の指定する騎手を乗せろというのだ。果して、その真の目的とは? ダービイを控え、本格的仕上げ調整に入った厩舎を襲う妄執の影!(紹介文より)
「お前と父、二人で私の心を引き裂く」 (本文より)
小さい頃から望むものは何でも与えられてきたアレサンドロ。
彼が父親に言った一言でニールは、窮地に立たされることに。
それはダービーの本命馬アークエンジェルに乗りたい というたわいもない一言だったのだけど……。
アレサンドロの父親のエンソは ”脅迫” という手段を使って人を思い通りに動かしてきた危険な人物で、時には人を殺すことも
そして、今回も同じようにニールを脅迫して息子のアレサンドロをアークエンジェルに乗せるように迫る。そうしなければニールの父親の厩舎を破滅させると言って
父親が交通事故で入院している間、一時的に経営をあずかるはずだったニールは、厩舎と父親を救うためエンソの望みどおり、アレサンドロを受け入れるのだけど……ここでフランシスのヒーローの本領発揮
エンソの脅迫にニールは簡単には屈しない。
彼の息子のアレサンドロはまだ18歳の少年で、青年になりかけた年頃の彼は傲慢で鼻持ちならない自惚れや。エンソが人を脅して言うことをきかせるやり方をずっと見てきたアレサンドロは、ニールに対しても見下したような態度をとるのだけど、ニールはそれを許しません。
アマチュア騎手としての経験のあるアレサンドロなのだけど、プロの一流の騎手に比べたらまだまだ未熟者。アークエンジェルに乗れるほどの技術もないことから、彼をアークエンジェルに乗せてレースに出場しても厩舎にとってよい結果にならないことは一目瞭然。そこでニールがとった行動は、アレサンドロを教育すること。
それはアレサンドロが自分でも気づかない間にエンソによってゆがめられた彼の本当の姿を取り戻させることでもありました。
最初の方こそニールもアレサンドロを嫌っていたんだけど、彼は父親のエンソほど冷酷でも卑怯でもなくて、どこか素直なところのある青年だということがわかってくる。エンソの怒りを上手く避けつつ、アレサンドロに対して断固とした態度をとるニールにいつしかアレサンドロも敬意を抱くようになっていく。
少しずつニールに心を開いていくアレサンドロ。
全ては上手くおさまるかに見えたのだけど……。
アレサンドロがアークエンジェル以外の馬でレースに出場して優勝した時、ニールに心からの笑顔を向けるのだけど、それを見ていた父親のエンソは息子と心を通わせたニールに激しく嫉妬する。そしてニールに危害を加えようとするのだけど、アレサンドロから、「そんなことをすれば父親を憎む」 と言われて思いとどまります。
ところが、そのことでニールへの憎しみは倍増(そんなものですよね
)
今やニールの運命はアレサンドロ次第ということに。
最初から、アレサンドロを楯にしてエンソを牽制するように意図して行動していたニールだったのだけど、エンソがあまりにも常軌を逸していたことから事態は思わぬ方向へ。
ニールとエンソ ― はたしてニールはアレサンドロを梃子に最後までバランスを保ち続け、この窮地を乗り切れるのか?
危ういニールの綱渡り状態に、緊張しっぱなしでした〜