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ディック・フランシス,菊池 光
早川書房
¥ 861
(1976-04)
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★★★★(4/5)
あらすじ
ラドナー探偵社の調査員シッド・ハレーは、わき腹に喰いこんだ鉛の弾丸のおかげで生き返った。かつて一流の騎手だったハレーは、レース中に腕を負傷し騎手生命を絶たれ死人も同然だったのだ。だが、いま彼の胸の中に犯人を捕らえようとする気持ちがわき起こる。彼を撃った男は誰に頼まれたのか?その黒幕は何を企んでいるのか?傷の癒えたハレーは過去への未練を断ち切り競馬界にうごめく陰謀に完全と立ち向かっていく。(紹介文より)
〜感想〜
『その時はそうは思わなかったが、あの銃弾は私自身にとっては人間解放の第一歩であった』 (本文より)
ごあいさつ の記事で書いたように私の一番好きな作家ディック・フランシス。記念すべき(笑)最初の記事は、やはり彼の作品から載せたいと思います
この作品の主人公は競馬シリーズの中でも私の一番のお気に入りのヒーロー、シッド・ハレーです
チャンピオン・ジョッキィにまでなった一流騎手のシッドは、レース中の事故で、手に回復不能の怪我を負ってしまう。彼の何よりの望みは騎手としてレースに出場し、勝つこと。シッドにとっては、それが全て。そんな彼の態度に耐え切れなかった妻ジェニィとはいがみ合うようになり、ついには離婚。
手に負った怪我は正視に堪えないほどひどい状態で、手としての機能を果たすこともできず、周囲から向けられる憐れみの視線に屈辱感を感じるシッド。栄光、名誉、愛情……全て失ったことで彼は生ける屍状態に。
そんな彼のもとへラドナー探偵社の経営者ラドナーが自分の下で働くよう誘いかけてくる。どんなことにも興味をもてなくなっていたシッドは言われるがまま、彼の下で調査員として働き始めるが……。もともと好きで始めた仕事ではなかったことから、嫌気がさしていたシッドは油断がもとで生死の境目をさ迷うことになる。
目覚めた彼は退院後、義父チャールズの自宅で療養することになるんだけど、実はそこには新たな事件にシッドを巻き込もうという、チャールズの企みが隠されていたんだよね。このチャールズは離婚した妻ジェニィの父親なのだけど、最初の方こそ、
”たかが、騎手” と見下していた彼はシッドの頭脳明晰さに気づき、すこしずつ心を開き始めて今では本当の父子のような絆で結ばれていたんだよね。だからこそ、シッドのことを心配していて、チャールズなりの方法でシッドを元気付けようと画策したってわけなんだけど……。
その方法っていうのが、生ぬるいやり方じゃなくてね〜。 愛のムチって感じ
何はともあれ、その方法が功を奏してシッドは調査を始めることになる。まず、手始めはボスであるラドナーに調査の許可をもらうこと。ところが、寛容に見守っていてくれたはずのボスも、今回のシッドの失態に諦めてしまったのか、あまり乗り気じゃない様子……。
「感じのいい気のきいた冗談を言う灰がオフィスを漂っていた。ただ、それだけのことだ」
そんなふうに言われて始めて自分がどれだけひどい状態だったのかを知ったシッドは、とにかくチャンスを与えてもらうためにラドナーを説得するんだよね。もともとラドナーはそれが望みだったこともあって、彼にゴーサインを出す。相棒のチコと共にシッドは競馬場乗っ取りを防ぐ為、調査を開始するんだけど……。-
とにかく、欲しくて欲しくて仕方がないものがあって、そのために血のにじむような努力をして手に入れることが出来たとき……喜びはいったいどれほどのものなのかしらね? そして、同時にそれを奪われてしまった時の絶望はどれだけ深いものなのか?
その両方を経験したシッド・ハレー。
彼が味わった挫折感、絶望、屈辱。 それらは、本当の意味でわかることはないのだけれど、少しずつ自分を取り戻し絶望の淵から這い上がっていくシッドの勇気には胸が熱くなりました〜。
次は
『利腕』 へ。