|
ディック・フランシス,菊池 光
早川書房
¥ 861
(2000)
|
★★★★(4/5)
あらすじ
イギリスの障害レースでは思いがけない大穴が十回以上も続出した。番狂わせを演じた馬には興奮剤投与の形跡が明白であったが、証拠が発見されなかった。いったい、どんな手段が使われたのか? 事件の解明をオクトーバー卿に依頼された牧場経営者ダニエル・ロークは、厩務員に身をやつして、疑わしいと思われる厩舎へ潜入するが……。(ハヤカワオンライン)
〜感想〜
”競馬シリーズ”の邦訳第一弾にあたります。 ちなみにシリーズの第一作は『本命』です。さて、久しぶりに読み返したディック・フランシス。 やっぱり いい! あっという間に引き込まれて最後まで一気に読破してしまいました。
今回のヒーローは裕福な牧場経営者のダニエル・ローク。 彼は若干十八歳の時に両親を亡くしてから弟妹を育ててきた責任感のある立派な青年。現在は二七歳になっており、牧場主として成功して周囲からも尊敬されています。
そんな彼がある日、障害レースの理事であるオクトーバー卿から事件の真相を突き止めるための依頼を受ける。以前に調査をしていた人物が不審な死を遂げていることから、危険をともなうことを知り躊躇するローク。弟妹の生活は彼一人の肩にかかっていることから、一度は断るロークなんだけど、義務と責任に縛られて自由のない生活にうんざりしていた彼は、とうとう引き受けることを選ぶ。 スリルを求めて。
この、ダニエル・ロークは紳士階級で容姿にも優れている青年。そんな彼が調査のために馬丁として厩舎に潜入するんだけど、馬丁というのはどちらかというと下層階級という意識のある馬主や調教師たちにひどい扱いを受けます。今まで丁重な態度でしか接せられたことのないロークは、そんな彼らの態度にかなり屈辱を感じてしまう。本来なら教養もある紳士なのに、調査のために無教養で粗野な振る舞いをしなきゃならない。そのことに対して抵抗を感じながらも調査のために耐えていく。
ところが、相手の身分が低いとなると横暴に振舞う輩はどこにでもいるわけで。馬主の娘に誘惑されて、それをはねつけると濡れ衣を着せられて放り出されるわ、体罰を与える馬主や調教師等々、肉体的にも精神的にも屈辱を味合わされる。しかも、この娘はオクトーバー卿の娘。彼と築いた信頼関係も壊され、敵地の真っ只中で唯一の味方すらも失ったロークは孤立し、一人、危険と向き合う羽目に陥ってしまう。
はたしてロークは事件の真相をつきとめ、無事家族のもとへもどることができるのか?
もともと、意志の強い人物のロークだけど、この調査によって打ちのめされたり、弱気になりながらも決して屈せず、さらに強靭な精神力を培っていきます。ディック・フランシスの特徴である、ヒーローの誇り高さ、強靭な意志、不屈の精神をまずはこの作品で味わってみてください。