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ディーン クーンツ
早川書房
¥ 882
(2007-04)
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★★★★★(5/5)あらすじ造園業を営む平凡な男ミッチにかかってきた電話。それが彼を地獄の底に叩き落した。最愛の妻ホリーが誘拐されたのだ。犯人は法外な身代金を要求し、警察に知らせたら妻の命はないと告げた。そして、単なる脅しではないことを示すため、目の前を犬を連れて散歩している男を射殺したのだ。ミッチは独力で妻を救おうと決意する。だが、事態は想像もつかない方向へ……。想像だにしなかった敵が現れ、ミッチは窮地に陥っていく。(裏表紙紹介文より)〜感想〜愛のために何をするか?
愛のために死ねるか? 人を殺せるか?
死がふたりを分かつまで
(目次より)
クーンツといえば超常現象物や、SF、ホラーなどを思い浮かべるはず。
今回の作品はそういった要素は一切なく、愛する妻を誘拐されて、突然、理不尽で暴力的な世界に巻き込まれた平凡な男性の混乱と恐怖、そして愛する妻を取り戻すまでの戦いの様子が描かれています。
両親から精神的な虐待を受けて成長したミッチにとって、妻のホリーの存在は何よりも、誰よりも大切な存在。ホリーのためなら、もちろん死ねるし、必要とあらば人を殺すこともできる。たとえ、そうしたことで、どんなに苦しむことになるとしても。
とはいえ、ミッチは軍人でもなければ、警察でもなく、暴力とは無縁に生きてきた平凡で善良な男性。突然の出来事に最初は戸惑い、恐れ、途方にくれてしまう。そして、最愛の妻ホリーの命はミッチの行動にかかっている。いったい犯人たちの要求はなんなのか?
どんなに考えても心当たりのないミッチは手も足もでない。
そして、犯人たちが伝えてきた要求は……ミッチ本人ではなく、兄アンソンに200万ドルを払わせることだった! ミッチにとってアンソンは愛する兄であると同時に、幼い頃から両親の精神的虐待を共に耐えた仲間でもある。そんな兄に大金を払わせる原因になったミッチは罪悪感に襲われるのだけど、アンソンは「愛する弟のためなら惜しくない」 と言ってくれる。 そして、犯人たちに盗聴されない場所でミッチに協力してくれる人間が必要だと説得する。ホリーの身に危険が及ぶのを恐れながらも、アンソンに従うミッチ。そして、アンソンは元FBI捜査官の屋敷へとミッチを連れて行くのだけど……。
そこでミッチは衝撃の事実を知らされる。
なんと、アンソンの本当の顔は犯罪に手をそめる悪党で、誘拐犯たちの狙いはミッチではなく、アンソン本人だったということを。さらに、誘拐犯たちはアンソンの元仲間で、彼らを欺いてアンソンが受け取った報酬こそが狙いだと聞かされる。ミッチにとって心から愛する人間は妻のホリーと兄のアンソンだけだったのに、そのうちの一人からの手ひどい裏切り……しかも、一番支えが必要な時にこの仕打ち。
あまりの衝撃に言葉を発することのできないミッチにいらだったアンソンは、挑発するかのようにホリーを侮辱する台詞をミッチに浴びせる。そんなアンソンにミッチは一言。
「哀れだな」
結局のところ、アンソンは両親の精神的虐待に打ち負かされてしまったのかもしれない。逆にミッチは、その虐待に負けずに人間的な感情をなくさないで、ホリーという愛する女性を見つけた。そのことでアンソンはミッチを憎んでいたのかも。
でも、ミッチがそう成長できたのはアンソンのおかげだったのにね。
そして、この瞬間からミッチの中の何かが目覚めることになる。
といっても、超能力とかそういう力ではないですよ
見せかけの仮面をはずしたアンソンと心の抑制を解かれたミッチ。
アンソンの暴走ぶりには思いっきりひいちゃったのだけど、ミッチの暴走ぶりはまあまあ許せました。とはいえ、この時のミッチには会いたくないけど
とにかく、ミッチにとっては今や大切な人は最愛の妻ホリーだけ。彼女を取り戻すためにミッチはアンソンと対決し、誘拐犯の居場所を突き止め、そしてとうとう最後に……。
作品としてはミステリかサスペンスのような気もしますが、最後まで読んでやっぱりこれは”愛”の物語だと思いました。ミッチのような旦那さんを持った妻は幸せ者です
もちろん、ホリーのような奥さんを持った夫も
愛のためにどこまでできますか?
自分だったら…… って、考えるのも面白いかもしれないですね。