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ロイス・マクマスター・ビジョルド,鍛治 靖子
東京創元社
¥ 1,029
(2007-01-30)
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★★★★(4/5)
あらすじ
戦の据えに敵国の奴隷となり、身も心もぼろぼろになって故国に戻ってきたカザリル。運良く少年の頃に仕えたバオシア藩で、国主の妹イセーレの教育係兼家令に任ぜられた。だが、イセーレが弟のテイデスと共に宮廷に出仕することになったため、カザリルも否応なしに陰謀の渦に巻き込まれることに……五柱の神々を崇める国チャリオンでカザリルを待ち受けていた運命とは!?(紹介文より)
〜感想〜
主人公のカザリル……かなりくたびれてます
奴隷船で受けた傷がひどく、36歳の若さでありながら見た目はすでに老人のようになってしまっていたカザリルは、国主の妹イセーレの教育係兼家令として仕えることで、かなり体調を回復していきます。利発で真っ直ぐな気性のイセーレは、その性格ゆえに不正や陰謀に対しては怒りを隠せない。深く考えず口に出した言葉や行動がもとで敵をつくることも……。そんなイセーレを心配してカザリルは、彼女に対して思慮分別をもたせようと穏やかに教育していくんだけど……。
戦で疲労困憊しているカザリルの望みは、とにかく静かに穏やかに日々を過ごしていくこと。ところが、イセーレについて宮廷に上がったカザリルを待ち受けていたのは、彼を罠にかけて亡き者にしようと企んだ張本人のある人物。
その人物とはチャリオンの宰相の弟で、宰相その人も弟の頼みを叶えようとカザリルを陥れた共犯者だったんだよね。
自分の身を守るために、カザリルは宰相と弟の陰謀に気づいていない振りをするんだけど、その宰相の弟がイセーレやテイデスに取り入ろうと近づいてきたことから、またもやカザリルは二人の企みを阻止するために行動せざるを得なくなっていく。
さらには、チャリオンの国主にまつわる呪いの存在を知り、イセーレやテイデスの身にも危険が及ぶことを突き止めたカザリル。イセーレを守るために、カザリルは自分の身を犠牲にしてある手段をとるんだけど……。
この作品は五神教という宗教でなりたっている世界を描いたシリーズです。<五神> とは
<父神> <母神> <御子神> <姫神> <庶子神>
これらの神々にはそれぞれ役割があって、その時々によって人々が祈る神は変わります。今回の主人公カザリルが関わることになるのは複数の神々。
普通、神々といえばありがたい印象しかないような気がするんだけど、この世界の神々はちょっとクセがあって、一度関わってしまうと、関わった人間はえらい(笑)苦労させられることになるみたい
実際、カザリルがイセーレを救うために王家の呪いを解く方法はほとんど不可能に近くて、カザリルはかなり酷い目にあいます。
このカザリルっていうのが、また控えめな人物で……。「私が救うのだ!」って熱血漢タイプとは全然違うのだけど、黙々と「やるべきことはやる」んだよね。地味なカザリルなんだけど、何故か彼の独特の雰囲気に取り込まれて、気がつけば最後まで一気に読んでました
そんなカザリルの独特の雰囲気に惹かれたのは私だけじゃなく(笑)、イセーレの付き添いのベトリスも同じ。カザリルもベトリスに惹かれるんだけど、神々に触れられたことによって彼が担った役目のせいで、自分の気持ちを打ち明けることができないんだよね。あんまりカザリルが謙虚で控えめなものだから、ベトリスはかなりじれったい思いをしたんじゃないかしら(笑)最後までカザリルの運命がどうなるのか、ハラハラしながら読んでました
ジャンルはファンタジーでも、派手な剣と魔法の世界ではなく、神々とそれに関わる人間の精神的な成長のようなものがテーマのような印象の作品でしたね。
次は
『影の棲む城』 上下 へ。
神々と関わったことで、気が触れたと噂されていたイセーレとテイデスの母親イスタが主人公になります。