★★★★★(5/5)
あらすじ
きょうも元気に(?)寝込んでいる、若旦那一太郎の周囲には妖怪がいっぱい。おまけに難事件もめいっぱい。幼馴染の栄吉の饅頭を食べたご隠居が死んでしまったり、新品のはずの布団から泣き声が聞こえたり……。でも、こんなときこそ、冴える若旦那の名推理。ちょっとトボケた妖怪たちも手下となって大活躍。ついでに手代の仁吉の想い人まで発覚して……。(裏表紙より)
前置き
前作
『しゃばけ』 で祖母が齢三千年の大妖怪で自分も妖の血を引いていることを知った一太郎。さらに、異母兄の存在も知ってなんとか兄と会いたいと思いつめていましたが……。本作はそんな一太郎と妖たちの後日談になっています。
〜感想〜
『ぬしさまへ』
妖の兄やの一人仁吉は眉目秀麗でもてもての色男です。
町を歩けばたちまちのうちに袖の袂は付文でいっぱいになるほど。
ある日、その付文のうちの一つを送った娘さんが殺されてしまい、仁吉に疑いがかかってしまう。心配した一太郎は早速妖たちの力をかりて犯人探しにのりだします。
『栄吉の菓子』
一太郎のほとんど唯一の友達と言っていい、お菓子屋の跡取り栄吉。
彼のつくる菓子は、一生懸命作れば作るほど珍妙な味になってしまうという代物。本人が一生懸命なだけに、素直に 「まずい」 とは言えず、できるだけ栄吉の作った菓子を買ってたべるようにしている一太郎ですが、ある日、栄吉の作った菓子を食べてご隠居が死んでしまう。後で、誤解だったとわかったものの、一度たった噂はなかなか消えず親戚一堂に責められる栄吉は身の置き所がなく、一太郎の家へしばらく避難してきます。
そんな栄吉を心配した一太郎は、いつものごとく妖たちの助けで犯人探しをすることに。
『空のビードロ』
一太郎の異母兄、松之助が一太郎に会う直前の話です。
ある日、奉公先の女主人の可愛がっていた猫が殺される。
もともと優しい主人ではなく、その事件のことで奉公人たちに当たり散らすようになり、松之助もあらぬ疑いをかけらてしまう。そこへ、主人の娘が現れて彼を庇い、優しい言葉をかけてくれる。感謝する松之助だったのだけど、実はそれは異母弟の一太郎へ取り入るための計算した演技で……。
それまで、人の優しさや思いやりにあまり触れたことのなかった松之助にとっては、娘の言葉はとても嬉しくありがたいものだったのに……。
そのことを知った時、松之助の心の中で何かが壊れてしまう。
そして、松之助はネズミ捕りの薬を懐から取り出し井戸へ向かおうと……。
と、目に留まる物がありました。
それはたまたま拾った青いビードロ。
落とし主に渡そうと思っていたものの、何故か手放せずに持っていたそれを、月にかざしてじっと見つめる松之助。
その美しさそのものに、心が同化していくような不思議な感覚に包まれ、松之介は正気に戻ります。
一太郎の父でもある長崎屋の主人は松之介を認めず関わろうとしておらず、そんな父親の態度をもどかしく思っていた一太郎は、内緒で兄に会おうとしていました。ところが、殺人事件に巻き込まれたりタイミングがずれたりしてなかなか会う事ができず、すれ違う二人。でも、そんな二人を知らず知らずのうちにある物が結び付けていました。 そう、松之介の恐ろしい衝動を止めた青いビードロです。
この後、追い討ちをかけるかのように松之介は火事に巻き込まれてしまうのですが、とうとう二進も三進もいかなくなった彼は、長崎屋を訪ねることを決心します。そして、やっと兄弟は会うことになるのですが……。
最後はちょっと泣きたくなりました
でも、悲しいのではなくて嬉しくてホッとしたからなんですけどね
人の縁というのは不思議なものだな、と、しんみりさせられました。
この短編集の中では、この作品が一番のお気に入りです
『四布の布団』
寝込むことの多い一太郎のために少しでもいいものを、と新しい布団を頼んだものの、届いたのは夜になると女の声で泣きだすというとんでもない代物。若旦那に甘甘の兄や二人の怒ること怒ること。さらには、甘甘甘の父親藤兵衛も怒り出し、布団を納めた先へ文句を言いに行く始末。少しでも穏便に済まそうと同行した一太郎だったのだけど、そこの主人の恐ろしいことと言ったら並じゃない
布団を縫った奉公人に害が及ばないように庇うつもりだったのに、主人のあまりの迫力に庇う前に気を失ってしまう(笑)
途端に大騒ぎをする父親と兄やたち。
とりあえず、寝かせようと部屋に案内してもらおうとすると、その部屋にはなんと死体があって……。
結局、寝込むことになってしまった一太郎なんだけど、泣き出す布団と死んだ男のことが気になり、犯人探しに乗り出します。
『仁吉の思い人』
大妖の祖母からおくられてきた二人の妖、犬神、白沢のうちの一人仁吉(白沢)の失恋話です。
いつものように(?)寝込んでいる若旦那を心配する二人の兄や仁吉と佐助。ところが、今回はかなり具合が悪いらしく、薬を飲むこともままならない様子。すっかり慌てた二人は、何とか飲んでもらおうと褒美でつろうとするのだけど、一太郎はどうしても受け付けない。
そこで、佐助はこんなことを言い出した。
「とっておきの話をしてさしあげます。仁吉の失恋話なんですけどね」
慌てる仁吉をよそに、俄然、興味を引かれた一太郎は気力を奮い起こし、何とか薬を飲み込んだ。 そんなに、知りたいのね(笑)と、ちょっと笑ってしまいました
そんな若旦那の姿に苦笑しながらも、約束だからと仁吉は自分で話し始める。
仁吉の普段からのモテモテぶりを知っている一太郎にしてみれば、彼が振られたということがどうしても信じられない。
興味が湧くのも当たり前なのかも(笑)
実は、仁吉の失恋話は一太郎にも関わりがあります。
結局のところ、一太郎と二人の妖は出会うべくして出会ったんだな、と、納得するものがありました。やっぱり、人(妖?)と人との繋がりっていうのは面白いです
『虹を見し事』
ある日、起きてみると環境が変わっていた。
……驚きます[:ふぅ〜ん:]
いつもなら、どちらかが必ず傍にいる二人の兄やが、今朝はどこにもいない。そして、過保護すぎるほど甘甘だったのに、そのそぶりもしなくなる。
昨日まではいつもどおりだったのに、突然、全てが変わっている。
何よりも、いつも一緒だった妖がいなくなってしまっていることが、どうしても信じられない。
普段から、甘えることをよしとしない若旦那でも、突然の二人の兄やの態度の変化には戸惑うばかり。でも、そのおかげで一太郎は気づきます。これが当たり前なのだと。
なんとも寂しい心持になるものの、とにかく慣れなければ、と頑張る一太郎がいじらしく思えます
ところが、そのうち妖たちが姿を消したものの、”何か”は、いることが感じられ、しかもその何かは一太郎に害を為そうとしているらしい。さらには、自分が言ったことが現実になったり、と、どこかチグハグな出来事が起こり始める。
さては、これは他人の夢の中なのか、と、一太郎は手がかりを探し始めるのだけど……。今回は妖たちの手助けがないので、寂しい思いをする一太郎が可哀相でした[:がく〜:]
妖たちがいなくなっちゃうのか? と、読んでいてドキドキしたのだけれど、妖たちがいなくなったのには、ちゃんと理由があって最後にはいつもどおりに若旦那の周りに現れたときにはホッとしました
やっぱり、若旦那の周りには妖たちがいなきゃね
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畠中 恵
新潮社
¥ 500
(2005-11-26)
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