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クリフ マクニッシュ
理論社
¥ 1,680
(2008-05)
Amazonランキング:
663828位
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★★★★(4/5)あらすじ8歳の頃に天使と出会ったフレイア。
彼女は物心ついた時から、自分はいつか天使になる、という不思議な確信を持っていた。
天使が自分を訪ねてきた時も、当たり前のことだと思い脅えることもなく受け入れる。
「きみには気高さがある」
そう、告げて去っていった天使。
その時から、フレイアは再び天使が会いに来る日を待ち続け、自分も天使になるためにありとあらゆる行動を取り始める。ところが、天使は待っても待っても現れず……。
とうとうフレイアは精神異常者として病院へ収容されることに。
回復は不可能だと周囲は諦めていたのだが、ある日、父親の諦めることのない呼びかけにフレイアは答えをかえし……。前置き
作者のクリフ・マクニッシュ は一風変わった世界観のファンタジーを書いているというイメージがあります。主人公は子供たちなのですが、その子供たちはいつも重い責任を背負うことになっていて、その重さは、読んでいる方が代わってあげたい、と思うほど。
【シルバー・チャイルド】 シリーズもそうでした。
今回の作品も、主人公のフレイアの責任は重大です。
そのことに気づいたフレイアが、どう折り合いをつけていくのか?
タイトルの 暗黒天使メストラールの再生とフレイアの成長をからめて物語りは進んでいきます。
〜感想〜8歳の頃に天使と出会った事でフレイアは一時的に正気をなくしてしまいます。
数年後、父親の諦めることのない呼びかけに現実の世界へと戻ってきたフレイアは、少しずつ日常に慣れていき、学校にも通えるまで回復。
学校一の人気者の女生徒エミリーに気に入られ、学校生活は順調でした。
ただ、このエミリーという女の子は、とにかく自分が一番で、気に入らない子には平気で意地悪をするという、あまり誉められた性格ではないのが難点。
それでも、父親に心配をかけたことを重々承知しているフレイアは、自分の気持ちを曲げてエミリーの機嫌を取りながら、表面上は穏やかな学校生活を続けていきます。
天使のことは記憶の奥に封印したまま。
ところが、そんな上辺だけの平和が壊される日がやってきます。
そのきっかけになったのは一人の転校生。
彼女はステファニーといい、驚くべき事に天使の存在を心から信じていました。
さらには、今まで学校に通ったことがなく、周囲とどうやって接していいのかわかっていませんでした。
子供というのは、異質な存在には驚くほど敏感で、さらにはその存在を排除しようとするものです。
運の悪い事に、ステファニーは転校初日からエミリーに目をつけられてしまいます。そうなると、ステファニーにチャンスは残されていません。
初日から ”変わり者” のレッテルをはられ、あっという間に全校生徒から避けられる事態に……[:がく〜:]
そんなステファニーを見て、もともと優しいフレイアは心を痛めます。
何とか、ステファニーを助けてあげたいと思うものの、エミリーに逆らえばたちまち自分も変わり者として仲間はずれになってしまう
そうなれば、また父親に心配をかけるのはもちろん、何よりも以前のように自分が普通ではなくなってしまう、という不安を拭うことができません。
そんなジレンマに悩まされるフレイアだったのだけど、ある日、ステファニーはエミリーに問われるまま”天使” の話を始めます。
それがエミリーの罠だとも知らずに、得意げに天使の話をまくし立てるステファニー。
フレイアは何とか話をやめさせようとするのだけど、ステファニーはお構いなしに話し続ける。
やっと、エミリーの意図に気づいた時にはすでにクラス中がステファニーを笑いものにしていて……。
その姿を見ていたフレイアは、とうとうステファニーに助けの手を差し伸べます。
エミリーには気づかれないようにこっそりと。
この時から、フレイアは少しずつ変わっていきます。
そして、そんなフレイアの前に天使が再び姿を現します。
でも、その天使は少女の頃に会ったのとは別の天使で、しかも全てが黒い暗黒の天使でした
そして彼から放たれる強烈な ”憎しみ”
フレイアは恐怖に襲われます。
また、自分はおかしくなってしまったのだと
ところが、その天使と話すうちにまぎれもない現実だということに気づきます。
そして、彼の話はフレイア自身が何者なのか?
という思わせぶりな内容で……。
暗黒の天使の名は 「メストラール」
その意味は ”だれよりも公平でだれよりも愛される”というもの。
そんな名を持つ天使が何故今のような暗黒の天使になってしまったのか?
フレイアは不思議な直感で、彼が何か恐ろしいことをしたのだということがわかります。
そんなフレイアの鋭さに戸惑うメストラール。
彼はフレイアを嘲りながらも、彼女が秘めている何か を認めた素振りをするのだけど、フレイアが何者なのか、ということには答えないまま姿を消してしまいます。
再び天使に会えた嬉しさよりも、また始まってしまった という恐怖のほうが大きいフレイアは、天使の存在を信じているステファニーに思わず助けを求める手紙を出します。その手紙を受け取ったステファニーはエミリーに意地悪をされている自分を顧みず、フレイアを助けようと決心。
一方、メストラールと出会った事で動転したフレイアは家で一人悩んでいました。
そこへ、思いがけずもう一人の天使がフレイアのもとを訪れます。
その天使こそ、8歳の時に出会った光り輝く天使だったことからフレイアは喜びに包まれるのだけど……。
天使の名は 「ヘストロン」
その意味は ”万人から大切にされる” というもの。
そして、暗黒天使メストラールの弟でもあるというヘストロンは、何故あの時フレイアの前に現れたのかを初めて説明しはじめます。それは驚くべき内容でした。
なんと、フレイアは人間でありながら天使でもある存在だというのです
そしてヘストロンは天使がどういう存在なのか、をフレイアに説明し始めます。
そもそもは宇宙を飛び回る存在だった天使が、あるとき地球を通りかかりたくさんの人間の助けを求める声を聞いたのが始まりだったといい、その助けを求める声を無視することはとてもできず、それ以来人間たちをひたすら守ってきたのが自分たち天使だと教えてくれます。
本作の天使は神様に仕えている天使とはちょっと違っていて、どちらかというと異星人といったほうがいいかもしれません。実際の姿も天使とは違うのだけど、人間達がイメージする天使に姿を変えているようです。ただ、この天使たちは人間達に深い愛情を抱いてします。
助けを求める人間の声を聞き、その人間の一番近くにいた天使が助けに行く、という方法を取っているのだけど、一度助けた人間はその天使の<守るべき者>としてずっと同じ天使に守られることになります。
ただ、天使の数には限りがあります。
助けを求める人間の多さに対してあまりにも少なく、一人の天使の<守るべきもの>の数が多く、同時に助けを求められた時にはどちらかを選ばなくてはなりません。
そうなった時に、天使が抱く悲しみは計り知れないものがあります。
それでも、人間たちを守ることをやめられない天使たちは時には自らの身を犠牲にして人間たちを助けていきます。
そう、天使は不死ではなく、傷つくこともあれば死ぬこともあるのです。
そんな説明を聞きながら、フレイアは自らも天使になることを望みます。
天使として<守るべきもの>を受け持ちたい、と。
そして、メストラールのことに思い当たります。
メストラールは<守るべき者>を見捨てたことで、暗黒の天使に変わってしまったのだと。
フレイアは天使になることを望むのだけど、それは彼女が思っていたより過酷なものでした。そしてメストラールが経験してきたことを知ったとき、彼への恐怖を忘れます。
相変わらず、フレイアに対しては皮肉な態度をとるのだけど、彼がどれだけの力を持ち、偉大な天使なのかを垣間見ることも度々あって、フレイアは彼を尊敬し始めます。
そして、ある日フレイアは天使としての自分を試されるような出来事に遭遇します。
<守るべき者> のために自分の身を犠牲にできるのか?
……天使としての自分の不甲斐なさに絶望したフレイアはすべてを投げ出してしまいます。そうして、追い討ちをかけるように父親の病気、ステファニーの訪問、とフレイアが避けたかった問題が一気に表面にあらわれ、フレイアは心にもない言葉を父親とステファニーに投げかけて二人を傷つけてしまう。
後悔してもあとの祭り。
そして、現れるメストラール。
彼の容赦ない言葉にますます追いつめられていくフレイア。
彼女はこのまま天使としての自分を投げ出してしまうのか?
臆病な人間の少女として生きていくのか?
そしてフレイアがとった行動は……。
本作の魅力はなんといっても天使たちです。
彼らが人間に向ける愛情は、人間が天使や神様に求めている理想の姿じゃないかと思うほど。
助けを求める声が届けば即座にかけつけ、時には自分の身を挺してまでも救ってくれる。
そして<守るべき者>に向ける愛情の深さ。
そんなふうに無償で人間を守り続ける天使たちの姿に、嬉しさと同時に切ない思いをさせられました