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イリアム(上下)/ダン・シモンズ
ダン・シモンズ
早川書房
¥ 1,155
(2010-04-05)
Amazonランキング: 20612位

ダン・シモンズ
早川書房
¥ 1,155
(2010-04-05)
Amazonランキング: 22734位

JUGEMテーマ:読書

★★★★(4/5)

あらすじ

はるか数千年もの未来、地球化された火星のオリュンポス山のふもとに住む学者ホッケンベリーは、イリアムの平原でギリシア神話の神々や英雄たちがホメーロスの『イーリアス』さながらに戦うトロイア戦争を観察していた。
神々にナノテクで復活させられたホッケンベリーは、この戦争の記録をとらされていたのだ。
だが、彼は思いもよらぬ使命をある女神からさずかる。

地球でわずかに生き残っている人類は、仕事も学問もせず、衣食住のあらゆることを自動機械の下僕たちに任せ、享楽的な生活を送っている。
この世界の仕組みに疑問をもった男ハーマンやその友人アーダとディーマンは、世界の謎をつきとめるべく旅に出た。

木星の衛星エウロパに住む半生物機械モラヴェックのマーンムートは、イオのオルフらとともに、火星探検隊の一員として、火星へと向かった。
地球化された火星で起こっている異常な量子擾乱の原因を調査しようというのだが…。(紹介文より)


〜感想〜

…… 「イーリアス」 ってなに
と、初っ端からつまずきました(笑)  

ギリシアの英雄 アキレウス 、オデュッセウス、アガメムノン、トロイアのヘクトル、パリス、ヘレネ、カッサンドラ。 
オリュンポスの神々、ゼウス、ヘラ、アテネ、etc。

聞き覚えのある名前のオンパレードではあるのだけれど、「イリアス」 という叙事詩を軸にして物語が語られているので、最初は読んでいても今ひとつぴんとこなくて困りました。 
題名は聞いたことはあるものの、どんな内容なのか、までは知らなかったので

物語は過去に存在した学者のホッケンベリーの語りから始まります。
彼は神々によって、生き返らせられた人間で彼らのために戦争の記録をとる、という役目をしているのだけど、彼にとってはその戦争は過去に起きた出来事。
戦いがどう展開し、どちらが勝つのか、誰が死んで誰が生き残るのか、といったことがすべてわかっています。
最初は歴史でしか知らない出来事を、実際に自分の目で見ることができることにワクワクしていたものの、9年の間記録し続けるうちにすっかり嫌気が
とはいえ、神々に逆らえばあっという間に体内に植えつけられているナノテクが暴走し、無惨な死を迎えるだけ。 さすがに死ぬのは望まないことから、神々の怒りを買わないよう命じられるがまま役割を果たし続けています。

一方、その頃の地球ではわずかに生き残っている人間たちは過去の文明や科学を忘れ、”ポスト・ヒューマン” と呼ばれる存在に与えられた便利な機械を何の疑問も持たずに使用し、下僕としてつかえる得体のしれないヴォイニックスという生物に世話をやかれ、怠惰な生活を送っています。
そんな人々の中で、ハーマンという一人の男性が今の世界のあり方に疑問を感じ、詳しいことを調べようとします。 そしてハーマンに共感したアーダとハンナ、アーダに関心を持つディーマン、といった数人が安全な居住区を離れ、過去の世界から存在しているという 「さまよえるユダヤ人」 と呼ばれる人物を探す旅にでます。

そしてまた別の場所、木星の衛星エウロパでは半生物機械モラヴェックが、人間の存在を感じられなくなったのは何故なのか? 人間に何が起きたのか? を解き明かすために、まず、 ”火星” に調査に向かうことになります。

”神々の存在する火星で戦いの記録をとる学者のホッケンベリー”
”地球で過去の世界で何が起きたのかを調べるハーマンたち”
”人間に何が起きたのかを調べるために火星に向かう半生物機械モラヴェック”

この3つの視点で、話が進んでいくことになるのだけど……最初は話についていくのにちょっと苦労しました  なんといっても、いったい何がどうなってるのかがさっぱりわからないので、読んでいてじれったいというか、登場人物たちの話にしても、 ”ポスト・ヒューマン” ってなに
半機械生物モラヴェックって何者
なんで、オリュンポスの神々が当たり前のように存在してるの

と頭の中はクエスチョンマークでいっぱいでした(笑)
正直、途中で止めようかな、とも思ったんですが、3つのそれぞれの物語が進むにつれて、ホッケンベリーが神々に逆らおうと決意した場面にドキドキしたり、過去の地球で何が起きたのかという謎の真相にビックリしたり、モラヴェックたちの思いがけない冒険にハラハラしたり、と、気がつけばいつの間にかすっかりストーリーに引き込まれて夢中になって読んでました

3つの物語が繋がった時は、かなりワクワクさせられました
とりあえず、一段落はついてますが神々との戦いは始まったばかりだし、謎もまだまだ残っています。 
本作は二部作ということなので、すべての謎の答えは次で明らかにされるかと思います。
次は 『オリュンポス』 です  


 
| SF | 21:24 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
ゴドルフィンの末裔/永橋 流介
永橋 流介
幻冬舎
¥ 760
(2009-10)
Amazonランキング: 185502位

JUGEMテーマ:読書

★★★☆(3.5/5)

あらすじ

親友の競馬ライターが死んだ直後に、JRA職員・有森の元に届いた謎の絵葉書。
浮かび上がる八百長疑惑と、新興牧場をめぐる黒い噂。
真実を追って北海道に飛んだ有森は、競馬界の常識を根底から揺るがす、禁断のプロジェクトの存在を知る。
そして親友の死に隠された、哀しき運命とは。(紹介文より)

前置き

”北海道” ”競馬” の二つの言葉に引かれて手に取りました(笑)
”競馬” に引かれたのは ディック・フランシスの ”競馬シリーズ” のミステリが大好きだからなんですが、同じような作品なのかは……読んでからのお楽しみですね♪

〜感想〜

”親友が自殺した” と知らされた有森はしばらくの間、呆然としてしまうのだけどその後罪悪感に駆られるようになります。
というのも、フリーのライターとして独立した親友の藤木は最初の頃は順調に仕事をしていたものの、ある出来事のせいで契約を打ち切られ、借金を抱えて苦しい生活を送っていたのだけど、そんな彼の状況を薄々知りながらも、助けるために行動を起こさなかったことに今さらながら気づいて……

ところが、数日たったある日藤木から旅行先で書いた手紙が届きます。 その文面は自殺をしようとしていたとはとても思えないもので、有森はふと疑問を抱きます。

”本当に自殺だったのか?” と。

そうして、確証はなかったものの親友の死の真相を調べはじめるのだけど、調べが進むうちにやはり親友は自殺ではなく、何者かに殺されたのだと確信することに。
どうやら親友は、競馬にまつわる不正に気づき調べようとしていたらしいことがわかってきます。 
そして、有森にもまた危険が迫り……。

競馬のことはほとんど知らないんですが、本作は北海道を舞台にして競馬界の事情が詳しく描かれていて面白かったです。 道民の立場としては、ちょっとショック なことも書かれていて……どこまでフィクションでどこまでがノン・フィクションなのか? 判断がつかないところもあって、複雑な気持ちにもなりました

ディック・フランシスの 『競馬シリーズ』 とは、全然雰囲気は違ってましたが、主人公の有森が親友の死の真相をどこまでも追い続ける姿は好感が持てました
有森が競馬……馬かな? に抱いている熱い気持ちがビシビシ(笑)伝わってくる話でした。

そして、最後に明かされる親友の死の真相。
胸にずっしりとくる痛ましい真相だったのが悲しかったです
それでも、最後には少しだけ救われた気持ちになれたのはよかったです。



 
| みすてり | 08:30 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
海賊の子/カリン・ロワチー
カリン ロワチー
早川書房
¥ 1,050
(2009-10-30)
Amazonランキング: 176944位

JUGEMテーマ:読書

★★★☆(3.5/5)

あらすじ

ユーリ・ミハイロヴィッチ・テリソフ―海賊ファルコンがみずからの後継者として育てあげた青年。
戦闘輸送艦“マケドニア”の艦長に捕えられた彼は、いまアースハブの中心、地球の極北にある軍刑務所に収容されていた。
だが、「海賊組織の壊滅に協力すれば自由にする」 との当局の申し出を受け、酷寒の地獄から脱出した彼を待っていたのは、さらなる過酷な運命だった。(紹介文より)

〜感想〜

『艦長の子』 で、ライアンを誘拐してアザーコン艦長と取り引きをしようとした海賊ファルコンの後継者のユーリは、追いつめられてライアンを殺そうとしたことで捕まり、今では刑務所に服役中だったのだけど、ある日、自由と引きかえに海賊組織の撲滅に協力するよう要請されます。

でも、そんな上手い話に簡単にひっかかるユーリではなく、軽くあしらって断ろうとするのだけど、相手がそんなユーリの態度を見て刑務所で同室の相手フィンチを痛めつけるとほのめかしてきて……

ユーリにとってフィンチは……自分でもどう思っているのかわからない存在。 身体の関係はあるものの、それもお互いの目的にかなったから、というだけのこと……だったはずなのだけど、何故かユーリはフィンチのことを気にかけるようになってしまいます。
とはいえ、そんな自分の気持ちを他人に利用されることが面白いはずもなく、反発するユーリだったのだけどどうしてもフィンチのことを見捨てられず、しぶしぶながら海賊組織に戻り破壊工作の片棒を担ぐことを承知します。
そうして、ユーリはフィンチも一緒に連れてかつての自分の海賊船へと戻るのだけど……。

海賊ファルコンの後継者。
ジョスは1年耐えて逃げ出すことができましたが、もし逃げ出さなければどうなっていたのか? ユーリの体験したことを通してわかってきます。 それは、やはり想像したとおり痛ましく……自分の感情を殺さなければ気が狂ってしまうような体験でした。

ただ、ユーリにとって救いだったのはエスティアンという人物がいたこと。
彼は、ユーリを ”ゲイシャ” として訓練する役割を担っていたのだけど、ユーリは彼に愛情を抱くようになり、エスティアンもまたユーリを愛するように。
辛い思いをしながらも、彼の存在によってファルコンのほかの訓練にも耐えて成長して、後継者として活動するようになっていたのだけど、ある日、ファルコンが ”シンパ” に殺されたという知らせを受けることに その知らせを聞いてはじめは信じられなかったユーリも、しまいには本当のことだと納得します。 そして、エスティアンもまた死んだのだと。
その後、ユーリはアザーコン艦長の息子のライアンを殺そうとして捕まり刑務所に服役。

それが今ではかつての自分がいた海賊の組織を撲滅する手伝いをすることになるんですから、不思議なものですね
成り行きとはいえ、フィンチも一緒に連れ出して共に行動するようになったユーリは、彼といることで少しずつ人間らしい感情を取り戻していく事になります。 でも、その様子がまた痛ましくて……読んでいて辛かったです

自ら望んだものではなかったけれど、ファルコンの後継者として人を傷つけ殺してきたユーリが、果たして許されるのか? やりなおすことができるのか?  最後まで読むのは感情的には結構きつかったですが、希望を持たせてくれる結末にホッとしました。

ジョス、ライアン、ユーリ、の3人の少年のそれぞれの物語もこれで終りですが、今まで程過酷ではない(多分)とはいえ、彼らの戦いはこれからも続いていきます。
それでも、幾多の苦しみを乗り越えて、それぞれが辿り着いた場所、答えはこらから先も生きていくうえでの支えになっていくんじゃないかな、と思います 

ところで、ちょっと気になったのは ”ゲイシャ” とか日本にまつわる言葉等が出てくるんですが……どうも意味が間違って理解されてるな〜、と思えることがちらほら  微妙〜に笑えなかったです


 
| SF | 18:58 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
艦長の子/カリン・ロワチー
カリン・ロワチー
早川書房
¥ 1,050
(2009-07-05)
Amazonランキング: 189621位

JUGEMテーマ:読書

★★★☆(3.5/5)

あらすじ

戦闘輸送艦“マケドニア”の勇猛な艦長が父であり、母は著名な政治家、そしてアースハブ政府の最高指導者の一人を祖父に持つライアン・アザーコン。
その莫大な財産、美しい容貌、あふれる若さから「もっともホットな独身貴族」ともてはやされる彼だったが、その実体は、孤独でナイーブでわがままな青年だった。
だが、ジョスと呼ばれるひとりの青年との出会いが、すべてを変えていった…(紹介文より)


〜感想〜

『戦いの子』 で、ジョスの活躍によって<マケドニア>の艦長アザーコンとシンパサイザーのニコラスとの会談が実現したものの、休戦にまで持ち込むのはまだまだ問題が待ち受けています。

本作は、ちょっと前の時間に戻ってアザーコン艦長の息子ライアンの視点から改めて、ハブと海賊ファルコン、アザーコン艦長の戦いの様子が語られることになります。

英雄アザーコン艦長の息子として、マスコミにもてはやされて注目の的のライアンは誰もが羨む存在。 でも当のライアン本人はそのことが嫌でたまりません。
ハブと異星種族<ストリト>との戦いは、ライアンにとってははるか遠くで起きている出来事で、”戦争” という過酷な現実がどんなものなのかを知ることはありません。
そんなライアンにしてみれば父親の名声も、ひとごとにしか感じられず……。

ところが、そんなある日ライアンは命を狙われる羽目に どうやら、父親のアザーコン艦長がシンパサイザーと休戦の話し合いをしようとしていることが原因らしいのだけど……
その場は、なんとか事なきを得たものの、その後もライアンの身が危険にさらされることがわかり、そのことを知ったアザーコン艦長は息子を自分の艦へと連れ戻すことにします。 
その時からライアンは、戦争の現実を否応なく突きつけられることになり、傍観者の立場から当事者として関わっていくことになるのだけど……。

”有名人の息子” ならではの悩みで苦労していたライアンは気の毒ではあったのだけど、その悩みは甘やかされた子供のものでもありました。
<マケドニア>に乗り込んでからはそんな甘えは通用せず、ライアンは<マケドニア>の乗員たちや異星種族とハブの間の通訳として残ることになったジョスに鍛えられて大変な思いをすることになります

また、<マケドニア>で生活することによって、父親がどんな人物なのかを深く知るようになっていくのだけど、前作でアザーコン艦長もまた幼い頃に海賊ファルコンに誘拐されて後継者として教育されていたことがわかり、ジョスとは二人だけが知っている共通の思いを通じ合う間柄になっていましたが、その雰囲気を敏感に察知したライアンは詳しい事情がわからないながらも嫉妬に駆られることになります。

ジョスが気に入らないライアンだったのだけど、ジョスは甘やかされたライアンが気に入らないようで……。 反発しあう二人の様子にハラハラさせられました そんな二人の様子を読んでいるうちに、前作の最後でシンパサイザーのスパイだと<マケドニア>の乗員が知っていることで、ジョスが孤立することになって心配だったんですが、今では一部の乗員はそんな彼を受け入れていることがわかってきてホッとしました
最初は嫌がって父親に反発し続けたライアンが戦いに間近で接した事で、アザーコン艦長の苦労を理解するようになっていく姿が微笑ましかったです。

とにかくアザーコン艦長の望みは戦争を終わらせること。
そのために休戦の話し合いを進めようとするのだけど、休戦を望まない一部の人々がそんなアザーコン艦長を排除しようと陰謀を企みます。
そうして、アザーコン艦長の弱点のライアンに魔の手が迫り……

最初の頃の甘やかされた坊っちゃんが、よくここまで成長したな、と、最後はしみじみさせられました。 試練は人を強くする。 と言いますが……大変だったと思います
ほんと、ライアンは頑張りました

さて、次は最終巻の 『海賊の子』 です。
ジョスのあとにファルコンの後継者として教育された少年が主人公になります。



 
| SF | 22:50 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
戦いの子/カリン・ロワチー
カリン・ロワチー
早川書房
¥ 1,050
(2008-07-09)
Amazonランキング: 164164位

JUGEMテーマ:読書

★★★★(4/5)

あらすじ

8歳の時、ジョスの運命は大きく変わった。
宇宙船が海賊に襲われ、両親を含む乗員は虐殺され、生き残ったジョスは残虐な船長ファルコンの愛玩物となったのだ!1年後、補給のため立ち寄ったステーションで逃亡するが、こんどは人類に敵対する異星種族ストリヴィイルク=ナに捕われ、やがて戦士カーストの一員となるべく訓練をうけることに…(紹介文より)


〜感想〜

人類の勢力アースハブと異星種族ストリヴィルク=ナと彼らに味方して戦うシンパナイザーの戦争がくり広げられている近未来。

戦争の混乱を利用して利益を得ようとする海賊や、悪徳商人も加わって、通常の民間船や商船は常に襲撃に備えていなければいけないという、物騒な時代なのだけど、両親と共に商船<ムクドリ>に乗っていた8歳のジョスは、ある日残忍な海賊ファルコンに襲撃を受けることに。

以前から決められていた隠れ場所にいたジョスは、両親の身が心配でいいつけに背いて隠れ場所からでてしまいます。
わずか8歳とはいえ武器の扱いを多少は知っていたことから、海賊に見つかったときに咄嗟に相手を撃って逃げるのだけど、すぐに他の海賊に捕まってしまいます。
ところが、ジョスのそんな抵抗する姿は海賊の興味をひき、ジョスは海賊ファルコンのもとへと連れて行かれることに。
そうして、ファルコンと会ったジョスは何故か彼に気に入られてしまい……。

”ペット” として、ファルコンの側にいることになるのだけど、何故かファルコンはジョスに色々なことを教え始めます。 どうやら、ジョスを自分の後継者として訓練するつもりらしいことがわかってきます。 とはいえ、ジョスにとっては、ファルコンは両親を殺し、商船の仲間たちを殺した憎むべき相手。 彼の後継者になることを受け入れるはずはありません。
上辺はファルコンに従順に従いながらもジョスは脱出のチャンスをうかがい続けます。
そうして、やっと訪れたチャンスにジョスは逃げ出すのだけど、その時ハブとシンパライザーの銃撃戦に巻き込まれ……気をとられた隙にファルコンに背後から撃たれそのまま何もわからなくなってしまいます。

そうして、目覚めたジョスは……自分が異星種族の協力者であるシンパと呼ばれている人物の顔を見ることに 何故、自分を助けたのか? 何もわからず脅えるジョスだったのだけど、その人物は何をさせようともせずただジョスが自分に慣れるのを待ち続けます。
1年間、残忍な海賊ファルコンのもとにいたジョスにしてみれば、自分を助けてくれた相手でも簡単に信用はできません。
いつか、自分を殺すか、それとも売り飛ばすか、わかったものではありません。 そんなジョスの態度がわかるのか、シンパは辛抱強く接するのだけど……。

とにかくわずか6歳の少年が経験するにはあまりにも過酷なことばかりで、露骨な描写はでてこないのだけど、実際にジョスがどんな目にあったのかを想像すると…… 彼が負った心の傷の深さは計り知れません。
ジョスを助けたシンパは、 ハブからは ”ウォーボーイ” と呼ばれている二人のうちの一人で、ハブにとっては敵として恐れられている存在でした。 

数日がたつうちに、彼の存在に慣れたジョスは少しずつ彼のことを知っていくようになります。 ”ウォーボーイ” とは彼と弟の二人であること。 彼の名前はニコラスだということ。 そして、彼は ”比類なき者” と呼ばれる凄腕の ”暗殺者” でもあるということ
ニコラスは、ジョスに自分たちの言葉を覚えさせようと教育をはじめ、ジョスはニコラスが自分に害を加える気持ちがないことを理解するようになります。
そうして、ニコラスと一緒の時間を重ねていくうちに段々と彼に心を開くように。
今では、ハブに属していた自分のことが夢のように感じられていってしまいます。 そうして、ジョスはニコラスの弟子として、暗殺者としての訓練を受けることになるのだけど……。

気づけば1年の月日がすぎて、今ではすっかりニコラスに愛情を抱くようになったジョス。 ところが、そんな時にニコラスは、再びにハブとの戦いのために宇宙に行かなければならない、と言い出します。 「見捨てられた」 とショックを受けるジョスだったのだけど、ニコラスのほうもジョスは大事な存在になっていて、本当なら行きたくない、と思っています。
それでも、事は戦争にかかわる問題。 ニコラスの気持ちがどうであれ、やるべきことはやらなければなりません。
そうして、ジョスはニコラスと離れ離れになることに

その間、同じく暗殺者であるニコラスの弟アッシュ=ダンと母親がジョスの教育を続けるのだけど、アッシュ=ダンは最初からジョスのことを目の敵にしています。 ニコラスに言われたとおり、ジョスの教育を続けはするものの、同時にことあるごとに海賊ファルコンのことを持ち出して、ジョスの心を傷つけようとします。 
そんなアッシュ=ダンの苛めに耐えながら、ニコラスの帰りをひたすら待ち続けるジョスだったのだけど、あっという間に4年がすぎて……。

ニコラスが戻ってきた時にはジョスの心は頑なになってしまっていました。 ……無理もないです とはいえ、4年というのはニコラスにとっても予想外だったようで、彼もまた苦しんでいたことがわかります。 お互いに愛情を抱いていることがわかっているので、ぎこちないながらも少しずつ以前のような関係に戻るのだけど、ある日ニコラスはジョスにある計画を打ち明けます。

しばらくしたら自分はまた宇宙に出る事になるが、その時はジョスも一緒に連れて行く、と。

喜ぶジョスだったのだけど、その計画には落とし穴がありました その落とし穴とは、計画の目的はジョスをスパイとしてハブの戦艦に送り込むためのものだということ  今のジョスにとってはシンパであるニコラスこそが大事な存在。 スパイとして働くことに抵抗はないものの、そのこととは別にジョスはショックを受けてしまいます。

「このために自分を助けて訓練したのか」 と

ジョスが絶望してしまうのもわかります
とはいえ、ニコラスには決してそんな意図はありませんでした。 そのことを完全にではないものの納得したジョスは不安を抱きながらも、ニコラスの計画どおりハブの戦艦<マケドニア>に乗り込むことに。

ニコラスが知りたいのは、ハブの英雄であり、戦争の局面を左右するほどの影響力を持つ<マケドニア> の艦長アザーコンの人物像。 アザーコン艦長が休戦の申し出を受けるような人物か? 信用に足る人物なのかどうか? をジョスは探り出すことになります。
ところが、いざ<マケドニア>に乗り込んでみると最初からトラブル続き 海賊ファルコンの艦に1年間いたことがアザーコン艦長の不審をまねくことになり、厳しい監視の目にさらされることに……。

ジョスにとって、ファルコンが及ぼした影響は大きく、心に負った傷も深いものでした。 <マケドニア> に乗り込むことによって、そういった過去が再びジョスを追いかけてきます。 
果たしてジョスは、ニコラスの計画を成功させることができるのか?
そしてジョス自身の傷が癒される時はくるのか?

悩み、苦しみ、傷つきながらも成長していくジョスの姿は痛々しいものでしたが、彼が最後に ”自分のいるべき場所” に辿り着いたのはとても嬉しかったです。
とはいえ、決してそれは終りではありません。 ジョスの戦いはまだ続いていくことになるのだけど、その後の戦いは時系列を少しずらして別の主人公の視点で語られていくことになります。

次は<マケドニア>のアザーコン艦長の息子が主人公の  『艦長の子』  です。



 
| SF | 19:13 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
エラントリス−鎖された都の物語−(上下)/ブランドン・サンダースン
ブランドン サンダースン
早川書房
¥ 966
(2006-08)
Amazonランキング: 179580位

ブランドン サンダースン
早川書房
¥ 966
(2006-08)
Amazonランキング: 145613位

JUGEMテーマ:読書
 
★★★★(4/5)

あらすじ

かつて栄華を誇った都、エラントリス。
そこは魔法の力で隅々まで光輝に満ち、突然の“変容”(シャオド)により選ばれた住人は神のごとく崇められた。
だが十年前、魔法は突如崩壊する。
以後都は汚泥に覆われ、“シャオド”に見舞われた人々は生ける死人となり果てた―そして今、“シャオド”が若き王子ラオデンの身に降りかかる。
表向き死んだものとして廃都に送られたラオデンが、絶望の都で目にしたものは?(紹介文より)

前置き

ファンタジーが読みたいな〜、とふと思い何気なく手に取ったのが本作だったんですが、読み終わったあとに作者の名前を見て気づきました。
『ミストボーン』 シリーズの作家さんだ  ……全然気づきませんでした
作品の雰囲気は何となく似ているとは思いますが、微妙〜に違っているように思えました。 どちらかというと本作のほうが少しだけ明るい(笑)雰囲気で、個人的にはこちらのほうが好きかな、と
とはいえ、『ミストボーン』 シリーズは、まだ完結していないこともあって、物足りない気持ちにさせられたのかな、とも思います。
今は第二部(?)の 『ミストスピリット』 シリーズが出ているので、こちらを読めばまた感想は変わるかもしれません

〜感想〜

物語は ”エラントリス” というかつて栄華を誇った都を軸にして進んでいきます。 ”エラントリス” の住民たちは、ある夜 ”シャオド” と呼ばれる現象に見舞われ次の日には今までの姿とは全く違った容姿に変わり、不思議な力を持つようになった人々。

”シャオド” に選ばれるのはまったくランダムで、王族だったり、乞食だったり、平凡な市民だったりするのだけど、共通するのはシャオド(変容)を終えた人々は、白髪と銀色に輝く肌といった姿になり”アオン文字” と呼ばれる文字を利用してパンを空中から取り出したり、何もないところから必要な物を作り出したり、病気や怪我を治したり、とまるで神々のような力を駆使するようになる、ということ。

そういったことから ”シャオド” に見舞われた人々は神々として崇められ ”エラントリス” の都で暮らし人々を守り導いていたのだけど、ある日突然、”シャオド” は ”呪い” に変わってしまいます ”シャオド” に見舞われた人物は、肌に黒いあざができ醜い姿に変わり不思議な力も使えなくなって……
さらには怪我を負えば治ることはなく、消えることのない痛みにおそわれつづけることになります。 何故、そんなふうにシャオドが呪いに変わってしまったのか?
原因がわからないまま、かつての ”神々” は地に堕ち、一転人々から蔑まれる存在へと変わります。 そうして10年の月日がたち、今また一人の人物がシャオドに見舞われることに。

その人物とは、アレロン国の後継ぎの王子ラオデン。
アレロン国はエラントリスのすぐ側にあって深い関わりを持っている国でもあります。 その国のラオデン王子がシャオドに見舞われ、王子であっても例外ではなくエラントリスへと追放されることに。

そうしてエラントリスでラオデン王子が見た光景は……。
気力を失い、常時飢えた状態で獣のように暮らしている人々の姿
シャオドに見舞われた者はほとんど不死身になるのだけど、呪いに変わった10年前からは食べ物を食べなくても死なないとはいえ、常時絶え間ない ”飢え” を感じるようになっています。 そのために、新たにエラントリス人となって放り込まれた人物の持っている食料は、彼らにとっては何をしてでも手に入れたいもの。
ラオデン王子は早速、獣のようになったエラントリス人に追われて食料を奪われそうになるのだけど、その時、一人の人物が彼を助けてくれます。
彼の名前はガラドンといい、数日前にエラントリスに来たようで、まだ他の人間を助けようとする気持ちをなくしてはいませんでした。

ガラドンのおかげで怪我をすることなく、窮地を脱したラオデンは彼にある頼みをします。 30日の間自分と一緒に行動してエラントリスのことを教えてくれないか、と。
ラオデンのことを妙な奴、と思いながらもガラドンは彼の頼みを承知することに。
そうして、ラオデンはエラントリスの状況を少しずつ知るようになり、他の人々の生活をよいものにするために行動を起こし始めます。

実はラオデンはアレロン国の後継ぎとしてかなり国民に期待されて愛されていた人物。 それはただ性格がいい、というだけではなく、人々に何が必要か? どうすれば国民を幸せにできるのか? といったことを考え、実行しているからでもありました。
そうしたラオデンの実行力と人を惹きつける魅力がエラントリスの人々にも影響し始めて、少しずつ人としての誇りを取り戻して人間らしい生活ができるようになっていくのだけど……。

一方、エラントリスの外の世界、アレロン国ではラオデンがシャオドに見舞われて追放された直後に、彼の許婚のテオド国のサレーネ王女が結婚式を挙げるために到着していました。
ところが、到着したサレーネ王女はラオデン王子が亡くなったと告げられて……。 それでも、法律ではサレーネはすでにラオデン王子の妻と同じ扱いになり、未亡人としてアレロン国で暮らすことになります。

ラオデン王子とサレーネ王女は政略結婚ではあったものの、事前にかわしていた手紙や会話によってお互いに好意を抱くようになっていました。 それだけにサレーネ王女の失望は深かったのだけど、アレロン国で過ごすうちに、ラオデン王子の死に不審を抱くようになります。
もしかしたら、彼は殺されたのではないか? と。
そうして、サレーネ王女は自分で真相を調べることにするのだけど……。

主人公はラオデン王子とサレーネ王女の二人で、物語はエラントリスの王子の活躍と、アレロン国の王女の活躍と交互に語られていくことになります。
そうして、ラオデン王子はエラントリスの人々をまとめて、”シャオド” が ”呪い” に変わってしまった原因を調べ、サレーネ王女はアレロン国を乗っ取ろうとするホラゼンという大主教の計画を阻もうと暗躍し……二人のそれぞれの活躍にワクワクさせられました

とはいえ、なかなか二人が顔を合わせる機会が訪れなくて、結構じれったい思いもさせられました。そうしてやっと出会ったと思ったら誤解が二人の間に生じて溝を生んでしまうことになってしまって…… 

ラオデンは”シャオド” の ”呪い” の謎を解くことができるのか?
サレーネはアレロン国を侵略から守ることができるのか?
そして、ラオデンとサレーネは誤解を解いてお互いの存在に気づくことができるのか?

後半部分で一気に事態が進んでいくスピーディな展開にはかなりドキドキしました  ラオデンが死にかけたり、サレーネも殺されかけたり、と最後の最後までハラハラさせられましたが、すべての謎が解けて迎えた大団円に幸せな気持ちになりました






| ファンタジー | 20:47 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
蒼天の翼<魂葬屋奇談6>(完)/九条 菜月
九条 菜月
中央公論新社
¥ 945
(2008-09)
Amazonランキング: 246238位

JUGEMテーマ:読書
 
★★★★(4/5)

あらすじ

強引な魂葬屋の亜緒に押しきられ、欠片探しを手伝っていたが故に、ユキの失われた過去をたぐる手がかりをなくしてしまった深波。
このままユキは記憶を取り戻すことなく終わってしまうのか?
己の無力さを噛みしめながらも仲間たちに背を押され、深波は再び立ち上がる。
だが、なぜかその身に危機が。
どうして深波が狙われるのか?襲撃者は何者なのか?そしてユキの過去とは―!?(紹介文より)



〜感想〜

『螺旋の闇<魂葬屋奇談5>』 で、ユキの過去を知るために行動を起こし始めた深波だったのだけど、思いがけない邪魔が入って調査は難航しています。
それでも仲間たちの励ましで、かすかな手がかりを求めて日記に書かれていた人物に縁があると思われる女性に話を聞きにいくことに。
すると、思いがけず有力な手がかりを手に入れることができます。

どうやら、ユキは日記に書かれていた人物と深い関わりがあるようだとわかってきます。 あるいはひょっとしたら日記に書かれている人物その人なのかも
手ごたえを感じた深波は調べを進めていくのだけど、そのうち身の回りで不思議な事故が起こるように。

校舎の窓から植木鉢が落ちてきたり、車に危うく轢かれそうになったり
果たしてこれは偶然なのか? それとも……?

それでも、深波の行動は止まりません。
そうするうちに、そんな彼の行動に不審を感じたユキが深波の後をつけてくるという手段に そうして、ユキは深波が自分の過去を調べていることを知るのだけど……。

自分に黙って何故、そんなことをするのか
激しい怒りに駆られるユキだったのだけど、しばらくしてから冷静になり深波の話を聞いて受け入れてくれます。
……結局のところ、深波の行動はすべてユキを思ってのこと。 腹は立てても、そんな深波の気持ちがわからないユキではありません

とはいえ、すべての謎はまだ解けていません。
深波を邪魔している人物を亜緒と真昼が知っているような素振りをしていたことから、ユキと深波はある作戦を立てるのだけど……。

えっ 彼が

と、実際に正体が明かされてみるとちょっと驚いたんですが、シリーズを通しての登場人物のことを思い浮かべてみると…… ”彼” しかいないか、と納得(笑)
そうして明かされるユキの失われた過去は……。
怖れていたとおり、切なくも哀しいものでした

ただ、過去のユキと現在のユキはまったく同じ人物ではありません。
記憶を失ってから過ごした歳月はユキに ”強さ” をもたらしました。 その強さは、過去を受け入れための助けとなり……。

ちょっとホロリ となりますが、穏やかで幸せな気持ちになる結末でした
……ほんとよかった(笑)



| ふぁんたじぃー | 20:04 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
螺旋の闇<魂葬屋奇談5>/九条 菜月
九条 菜月
中央公論新社
¥ 945
(2008-08)
Amazonランキング: 240499位

JUGEMテーマ:読書

★★★☆(3/5)

あらすじ

ユキの失われた過去、その唯一の手がかりとなる“日記帳”を入手した深波。
生前のユキがどんな人生を歩んだのか分かるかもしれない。
しかし過去を問われ 「もういいんだ」 と笑みを浮かべていたユキ自身は?
悩み過ぎて自縄自縛状態の深波だったが、ある決意の下、ようやく動き出す。
その矢先、「助人は魂葬屋を手伝うのが当然」 と言い放つ亜緒という少年が現れて―!?(紹介文より)

〜感想〜

『追憶の詩<魂葬屋奇談4>』 で、ユキの失われた過去の記憶を知るための手がかり、日記を手に入れた深波だったのだけど、悩みすぎて逆に身動きが取れなくなってしまっていました。

ユキを逆に不幸にすることになったら?
ユキに憎まれたら?
不幸な過去だったとしたら、自分はユキに告げることができるだろうか?

等々、とにかく悩みまくってます。
それでも、考えに考えてとうとう深波は決心します。
”たとえユキに憎まれることになったとしても、調べてその事実を彼に告げよう” と。

そうして動き出した深波だったのだけど、手がかりの示す地域へ向かった途端、亜緒という魂葬屋に捕まってしまいます。
亜緒には使い魔がついておらず、”助人” の深波の協力が必要だと執拗につきまとわれて、仕方なく彼の手伝いをすることに。
……せっかく、動き出したのに初っ端から躓いてしまってます(笑)

とにかく、早く亜緒の仕事を終わらせて調べに取り掛かろうとする深波だったのだけど、付き合い始めてみるとこの亜緒はとにかく性格が悪い 使い魔がいないのも、彼らがそんな亜緒の性格についていけずにやめたのが理由で……。
とんだ災難に巻き込まれてしまった深波だったのだけど、亜緒の手伝いをするうちに死神の真昼とも知り合うことになります。

この真昼は、魂を壊すことが嫌で嫌でたまりません。
なのに、亜緒は魂を助けることができるかどうかを冷静に判断し、たとえ日数が残っていても成功率が低いと判断したときはそのまま死神に破壊させることを選びます。
ある意味、効率的ではあるのだけど感情的には……正直いい気持ちはしません。
そのことを知った深波は、死神の真昼と協力して自分で魂の欠片を探すことにするのだけど……。

せっかく、決心して行動をした深波だったのに、思うようにはいかなくて気の毒でした ただ、今回の深波の姿を読んで思ったんですが、最初のころの無関心、無気力はどこへやら
他人のために必死になって、怪我まで負う羽目に
ユキと出会ったことで、深波は本当に変わったな、としみじみさせられました。

今回はユキの出番はほとんどありませんが、彼の過去を巡って思いがけない人物が動き出しています。 その正体はまだ明かされていないのだけど、どうやら亜緒と真昼も一役買っていたようで……。 いったい、ユキの過去に何があったのか 興味津々です

さて、いよいよ次は最終巻。
『蒼天の翼<魂葬屋奇談6>』 に続きます。



 
| ふぁんたじぃー | 19:03 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
追憶の詩<魂葬屋奇談4>/九条 菜月
九条 菜月
中央公論新社
¥ 945
(2008-03)
Amazonランキング: 289974位

JUGEMテーマ:読書

★★★★(4/5)

あらすじ

「お前たち、魂葬屋なのか?」 通り魔が頻発する地区で、深波は使い魔を連れた男女に出会った。
とっさに発した問いに答えはなく、話を聞いた時雨からは、死にたくなければその場所には近付くなと警告されてしまう。
まともに受け取らなかった深波だが、翌日そこで異形のものに襲われ、絶体絶命のピンチに。
こいつが通り魔なのか? そして謎の二人組の正体は…!?(紹介文より)

〜感想〜

『黄昏の異邦人<魂葬屋奇談3>』 で、ユキと目に見えない溝ができてしまった深波でしたが、表面上は何事もなかったかのように友人づきあいをしています。
微妙にぎこちないところはあるものの、基本的にはお互いを大事に思っていることに変わりはありません。

偶然に、オウムの使い魔を連れた二人組と出会った深波は彼らを魂葬屋だと思うのだけど、実際は ”始末屋” と呼ばれる存在で、彼らの役目は ”屍人”(しびと)を狩ること。
では、”屍人” とは何なのか?

それは、「肉体が死んでも魂が体内に残り、生きているかのように活動し続ける人間」 のこと。 実際は死んでいるので、その活動はいつまでも続くはずもなく、しばらくたつと魂が壊れてしまいエネルギーもなくなり、飢え始ることに。 そうして、屍人はその飢えを満たすために人間を襲って殺しはじめるようになってしまいます。

”始末屋" はそんな ”屍人” の魂を仮世に戻すことが役目なのだけど、深波は二人組の流と鈴女に不本意ながらまたもや協力することに
というのも、流と鈴女の使い魔のオウム遊李の口車に乗せられたから(笑)
……もはや深波のお人よしぶりは筋金入りといった感じです

とはいえ、今度の手助けは命がけといってもいいほど危険なもの。
深波が始末屋に協力することを知ったユキは必死に止めるのだけど、深波の決心は固くて……とうとうユキも説得することを諦めます。
そしてまたもや、二人の間の溝が深くなり……

段々とユキと深波の間がこじれてきてますが、大元にあるのは結局はお互いを気遣う想いなので、最後のほうではやっぱりユキは深波を助けにきます。 素直になれない態度がなんだか微笑ましかったです
今回、深波はかなり危険な目にあってしまいましたが、おかげで(?)得たものもありました。 それはユキの失われた過去を知るための手がかり。
何故か、使い魔の遊李はユキの過去のことを知っているらしく、その謎を知るための手がかりである ”日記” を深波に手渡すのだけど……。

果たして、自分がユキの過去を探ってもいいのか?
ユキにとって、どうすることが一番いいのか?

ますます深波は悩むことになります。
友達のために、心の底から悩む深波の姿に温かい気持ちになりました
……真剣に悩んでる深波には悪いんですけどね(笑)

次の 『螺旋の闇<魂葬屋奇談5>』 に続きます


 
| ふぁんたじぃー | 19:38 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark
黄昏の異邦人<魂葬屋奇談3>/九条 菜月
九条 菜月
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★★★☆(3.5/5)

あらすじ

三日間だけだからとユキに拝み倒され、魂葬屋見習い・千早、同じく使い魔見習い・胡白の認定試験に駆り出された深波。
日本語が限りなく怪しい千早(純和風の名前のくせに金髪の外国人!)と魂探知機能が限りなく不安な胡白につきあい、街中を右往左往するはめに。
手伝いだけでも大変なのに、夜間禁足令が出ているはずの千早は、夜な夜なひとり街を彷徨い、訳ありの様子で…(紹介文より)


〜感想〜

『淡月の夢<魂葬屋奇談2>』 に続く3作目です

今回のユキの深波への頼みは、見習いの認定試験の手伝いをしてほしい、というもの。 春休みになるのを見越しての頼みを断ることも出来ず……いつものごとく気が進まないながらも手伝うことになります

見習いは、千早という外国人で、使い魔は胡白という名前の鳩なのだけど、”鳩”はユキがどうしても生理的に受け付けることのできない大の苦手な生き物なことから、まともに胡白と話すこともできなくて……。
そんなんで、試験は本当に大丈夫なのかな? と思ったものの、それをフォローするのが深波っていうことみたいです(笑) もっとも、無理に胡白と話さなくても千早と話せばいいだけなので、実際は支障はないんですけどね

なにはともあれ、千早と胡白の手伝いをすることになった深波。
ところが、実際にユキのセッティングした試験は結構……いや、かなり厳しいもの ルールを破らない範囲で千早たちの手助けをするのは創造していた以上に大変で、またもやユキの口車に乗せられた深波が気の毒でした

それでも、今ではすっかり面倒見がよくなった深波の適切な手助けのおかげで、一つずつ課題をクリアしていく千早たち。 このまま順調にいけばなんとかなりそう、と思ったのだけど、千早が不穏な行動をし始めます。

そうして、仮世のお役人の矢那(やな)が千早を ”疑わしい人物” として、彼の行動を監視することに。
”疑わしい人物” というのは、魂葬屋には生前の記憶があるのだけど、その記憶に行動を左右されることはままあります。
例えば、殺された魂葬屋だったら、自分を殺した相手に仕返ししてやろう、と考えたり。 過去にそういった事態もあったことから、魂葬屋をスカウト(笑)するときは、事前に調査をすることになっているのだけど、たまに調査漏れするという事態も。

千早は、そんな調査漏れをした対象なのではないか、と疑われたようです。
実際、怪しげな行動をしているので、「もしかしたら?」 とつい思ってしまいます。でも、ユキは千早はそうじゃない、と最初から矢那を相手にしないのだけど……。

今回は、魂葬屋になるための試験がどんなもの、なのかが描かれていて面白かったです。 新登場の仮世のお役人の矢那はがちがちの真面目な性格をしているのだけど、情に厚くて涙もろい(笑)可愛い人物でもあります。
しかも、ユキのl元後輩でもありました。
ただ、矢那は助けられない魂が増えることに耐え切れませんでした。 そうして彼は魂葬屋をやめて、今では仮世の役人をしているんですが、優しいところは変わらないまま。
千早を疑いながらも、彼と深波の会話を陰でこっそり盗み聞きをしながら、もらい泣き する場面も(笑) なかなか味のある人物でした。

結局、千早にはある事情があっての不審な行動だったのだけど、それは決して人を傷つけるものではありませんでした。 そして最後には切ない結末を迎えることになってしまうのだけど、そんな千早の姿を見て深波は深く考えさせられることになります。

ユキは生前の記憶を失っていて、覚えていたのは ”ユキ” という名前だけでした。
そのことをユキは深波には言っていなかったのだけど、深波は別の魂葬屋から聞かされていてずっとそのことが心に引っかかっていて……。
「自分のことを知りたくないんだろうか?」
そんな疑問に駆られながらも、ユキ自身が触れたがらないことに無理に踏み込むのはいけない、と自重していたのだけおd、今回の千早の件でとうとう深波はユキに問いかけます。

「お前は生前自分がどんな人間だったか、知りたいとは思わないのか?」 と。

その問いにユキは 「正直、どうでもいい」 と気にしていないふうで答えるのだけど、深波はその言葉が嘘だと気づいてしまいます。 それでも、何気なくいつもどおりに振舞うユキに合わせる深波だったのだけど、その時を堺に二人の間には目に見えない溝が生まれて……

今では深波にとってユキは親友ともいうべき存在です。
そのユキが表面上は平気そうに振舞いながらも、心の底では悩んでいることがわかってしまう深波は、自分はどうすればユキの役に立てるのか? と常に考えるようになるのだけど、簡単に答えが出るはずもなく……。
深波は悩み続けることになります。

そうして悩み続けながら(笑)、次の 『追憶の詩<魂葬屋奇談4>』 へ続きます


 
| ふぁんたじぃー | 16:28 | comments(0) | trackbacks(0)|- pookmark


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