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カリン・ロワチー
早川書房
¥ 1,050
(2008-07-09)
Amazonランキング:
164164位
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★★★★(4/5)
あらすじ8歳の時、ジョスの運命は大きく変わった。
宇宙船が海賊に襲われ、両親を含む乗員は虐殺され、生き残ったジョスは残虐な船長ファルコンの愛玩物となったのだ!1年後、補給のため立ち寄ったステーションで逃亡するが、こんどは人類に敵対する異星種族ストリヴィイルク=ナに捕われ、やがて戦士カーストの一員となるべく訓練をうけることに…(紹介文より)
〜感想〜人類の勢力アースハブと異星種族ストリヴィルク=ナと彼らに味方して戦うシンパナイザーの戦争がくり広げられている近未来。
戦争の混乱を利用して利益を得ようとする海賊や、悪徳商人も加わって、通常の民間船や商船は常に襲撃に備えていなければいけないという、物騒な時代なのだけど、両親と共に商船<ムクドリ>に乗っていた8歳のジョスは、ある日残忍な海賊ファルコンに襲撃を受けることに。
以前から決められていた隠れ場所にいたジョスは、両親の身が心配でいいつけに背いて隠れ場所からでてしまいます。
わずか8歳とはいえ武器の扱いを多少は知っていたことから、海賊に見つかったときに咄嗟に相手を撃って逃げるのだけど、すぐに他の海賊に捕まってしまいます。
ところが、ジョスのそんな抵抗する姿は海賊の興味をひき、ジョスは海賊ファルコンのもとへと連れて行かれることに。
そうして、ファルコンと会ったジョスは何故か彼に気に入られてしまい……。
”ペット” として、ファルコンの側にいることになるのだけど、何故かファルコンはジョスに色々なことを教え始めます。 どうやら、ジョスを自分の後継者として訓練するつもりらしいことがわかってきます。 とはいえ、ジョスにとっては、ファルコンは両親を殺し、商船の仲間たちを殺した憎むべき相手。 彼の後継者になることを受け入れるはずはありません。
上辺はファルコンに従順に従いながらもジョスは脱出のチャンスをうかがい続けます。
そうして、やっと訪れたチャンスにジョスは逃げ出すのだけど、その時ハブとシンパライザーの銃撃戦に巻き込まれ……気をとられた隙にファルコンに背後から撃たれそのまま何もわからなくなってしまいます。
そうして、目覚めたジョスは……自分が異星種族の協力者であるシンパと呼ばれている人物の顔を見ることに
何故、自分を助けたのか? 何もわからず脅えるジョスだったのだけど、その人物は何をさせようともせずただジョスが自分に慣れるのを待ち続けます。
1年間、残忍な海賊ファルコンのもとにいたジョスにしてみれば、自分を助けてくれた相手でも簡単に信用はできません。
いつか、自分を殺すか、それとも売り飛ばすか、わかったものではありません。 そんなジョスの態度がわかるのか、シンパは辛抱強く接するのだけど……。
とにかくわずか6歳の少年が経験するにはあまりにも過酷なことばかりで、露骨な描写はでてこないのだけど、実際にジョスがどんな目にあったのかを想像すると……
彼が負った心の傷の深さは計り知れません。
ジョスを助けたシンパは、 ハブからは ”ウォーボーイ” と呼ばれている二人のうちの一人で、ハブにとっては敵として恐れられている存在でした。
数日がたつうちに、彼の存在に慣れたジョスは少しずつ彼のことを知っていくようになります。 ”ウォーボーイ” とは彼と弟の二人であること。 彼の名前はニコラスだということ。 そして、彼は ”比類なき者” と呼ばれる凄腕の ”暗殺者” でもあるということ
ニコラスは、ジョスに自分たちの言葉を覚えさせようと教育をはじめ、ジョスはニコラスが自分に害を加える気持ちがないことを理解するようになります。
そうして、ニコラスと一緒の時間を重ねていくうちに段々と彼に心を開くように。
今では、ハブに属していた自分のことが夢のように感じられていってしまいます。 そうして、ジョスはニコラスの弟子として、暗殺者としての訓練を受けることになるのだけど……。
気づけば1年の月日がすぎて、今ではすっかりニコラスに愛情を抱くようになったジョス。 ところが、そんな時にニコラスは、再びにハブとの戦いのために宇宙に行かなければならない、と言い出します。 「見捨てられた」 とショックを受けるジョスだったのだけど、ニコラスのほうもジョスは大事な存在になっていて、本当なら行きたくない、と思っています。
それでも、事は戦争にかかわる問題。 ニコラスの気持ちがどうであれ、やるべきことはやらなければなりません。
そうして、ジョスはニコラスと離れ離れになることに
その間、同じく暗殺者であるニコラスの弟アッシュ=ダンと母親がジョスの教育を続けるのだけど、アッシュ=ダンは最初からジョスのことを目の敵にしています。 ニコラスに言われたとおり、ジョスの教育を続けはするものの、同時にことあるごとに海賊ファルコンのことを持ち出して、ジョスの心を傷つけようとします。
そんなアッシュ=ダンの苛めに耐えながら、ニコラスの帰りをひたすら待ち続けるジョスだったのだけど、あっという間に4年がすぎて……。
ニコラスが戻ってきた時にはジョスの心は頑なになってしまっていました。 ……無理もないです
とはいえ、4年というのはニコラスにとっても予想外だったようで、彼もまた苦しんでいたことがわかります。 お互いに愛情を抱いていることがわかっているので、ぎこちないながらも少しずつ以前のような関係に戻るのだけど、ある日ニコラスはジョスにある計画を打ち明けます。
しばらくしたら自分はまた宇宙に出る事になるが、その時はジョスも一緒に連れて行く、と。
喜ぶジョスだったのだけど、その計画には落とし穴がありました
その落とし穴とは、計画の目的はジョスをスパイとしてハブの戦艦に送り込むためのものだということ
今のジョスにとってはシンパであるニコラスこそが大事な存在。 スパイとして働くことに抵抗はないものの、そのこととは別にジョスはショックを受けてしまいます。
「このために自分を助けて訓練したのか」 と
ジョスが絶望してしまうのもわかります
とはいえ、ニコラスには決してそんな意図はありませんでした。 そのことを完全にではないものの納得したジョスは不安を抱きながらも、ニコラスの計画どおりハブの戦艦<マケドニア>に乗り込むことに。
ニコラスが知りたいのは、ハブの英雄であり、戦争の局面を左右するほどの影響力を持つ<マケドニア> の艦長アザーコンの人物像。 アザーコン艦長が休戦の申し出を受けるような人物か? 信用に足る人物なのかどうか? をジョスは探り出すことになります。
ところが、いざ<マケドニア>に乗り込んでみると最初からトラブル続き
海賊ファルコンの艦に1年間いたことがアザーコン艦長の不審をまねくことになり、厳しい監視の目にさらされることに……。
ジョスにとって、ファルコンが及ぼした影響は大きく、心に負った傷も深いものでした。 <マケドニア> に乗り込むことによって、そういった過去が再びジョスを追いかけてきます。
果たしてジョスは、ニコラスの計画を成功させることができるのか?
そしてジョス自身の傷が癒される時はくるのか?
悩み、苦しみ、傷つきながらも成長していくジョスの姿は痛々しいものでしたが、彼が最後に ”自分のいるべき場所” に辿り着いたのはとても嬉しかったです。
とはいえ、決してそれは終りではありません。 ジョスの戦いはまだ続いていくことになるのだけど、その後の戦いは時系列を少しずらして別の主人公の視点で語られていくことになります。
次は<マケドニア>のアザーコン艦長の息子が主人公の
『艦長の子』 です。